ケージはなぜ必要なのでしょうか?

 ポラン動物病院では、保護動物を新しく家族にお迎えになっていただくにあたり、ケージをご用意いただきます。「閉じ込めておくなんてかわいそう」「もう何年も飼育経験があるから必要ない」と思われる方もいらっしゃると思います。そこでなぜ必要と考えるのかについて、当院の考えをまとめましたので 是非ご一読ください。

  ここでいうケージとは、年齢と大きさによりますが、犬であれば天井があるタイプでトイレとベッドとお水、フードのお皿を置くスペースがあるもの、猫では同様のセットが入り、二段から三段のステップ付きのもの、あるいは将来、上に拡張できるものを言います。折り畳める円形のソフトケージなどは災害時や妊娠動物、要介護動物向けですので、今回ご用意していただくケージには当てはまりません。そちらは緊急事用としてお考えください。

 

  ここまでお話ししておいて、まず皆さんに知っておいて欲しいのは、当院としては「ケージにずーっと入れっぱなしをよしとしていない」、という事です。そうだったら、わざわざ院内に保護動物ルームなど用意しません。では、なぜケージを用意するのか?を以下にご説明いたします。(今回は猫バージョンのみです。)

 

猫は狭いところが安心する。

 

 ケージを用意するシチュエーションは様々だと思いますが、当院では保護猫を譲渡するときにケージをご用意していただきます。すなわち、初めての環境で猫が過ごすタイミングです。

 初めての場所で緊張している猫はどういう行動に出るでしょうか。まず、狭いところに身を隠そうとします。猫は初めての場所でいきなりくつろいだり、探検したりということはまずなく、ソファの下、テレビの裏、ありとあらゆる隠れ場所に逃げようとします。 人に慣れている猫ですらそこから無理矢理出そうとすると噛まれる事もありますし、失禁してしまうこともあります。人慣れが不十分な子は、もはや捕まらない可能性もあります。そして、最初から恐怖を与えてしまう事によって、より人にも環境にも慣れにくくなります。

  トライアルのとき、まず当院では、お部屋やケージを確認させていただきます。猫はキャリーケースに入ったままです。なかにはケージの配置場所や階を変えてもらったり、ステップの高さを調整してもらったりします。慣れている人間が、穏やかに会話している声を聞き、少しでもキャリーケースの中で落ち着く時間を作ることも狙いです。

 次に、キャリーから猫をケージの中に移動します。お子さんなどはすぐに触ったり抱っこしたがりますが、当日は我慢してもらいましょう。大抵は猫は下の段のすみでうずくまったり、トイレに入ってしまいます。トイレが隠れ場所になると不衛生ですから、最初のトイレは屋根つきやオマルタイプなど猫が籠りやすいタイプは使用しないほうが良いでしょう。上の段にかまくら型などになったベッドを置いておくと、時間が経てば上がって入ったりします。人はじっと猫を見つめたりはせず、ケージの3面を布で覆ってそっとしておきましょう。

 

 このように、まず初めての場所で緊張している猫に、「ケージという安心できる場所をひとつ作ってあげる事」が大事です。ケージがない場合、猫は隠れる場所を探し逃げ回り、クローゼットや冷蔵庫の裏などに入りっぱなしになるケースもあります。そして、人がいなくなるとこそこそ出てきてご飯を食べる…そんなスタートは不幸でしかありません。猫の性格にもよりますが、あえてストレスを与える必要はないと思います。

 

人や環境に慣れやすくなる。

 猫が安心できる場所にするためには、ケージの設置場所も重要です。人が出入りする入り口付近などは避け、また洗濯機や乾燥機などの振動や音もない場所が良いでしょう。ただし、全く刺激のない場所だと環境に慣れることもないため、安心なケージの中から人の動きが見渡せるような場所が良いでしょう。

 

 猫は少しでも高い位置にいる方が安心します。大抵の猫は落ち着くとケージの二段目や三段目にいる事が多くなると思います。恐がりな猫などはケージの上にいれば目線の高さも合わせやすいですし、人の手などを怖がりにくくなります。フリーで床にいる猫を、急に人が触ろうとすると、大抵高いところから手や顔が降りてくる事になりますから、触る事を怖がる猫になりやすいです。ケージの中から猫に人間の普段の様子を見てもらい、「なんだ、怖くないんだな」と思ってもらう事が大事です。そのためにはご家族にも協力してもらい、じっと猫を見つめない、大きな音をたてない、横目でちらっと見る程度にしてさりげなく日常生活を送ってください。

 安全を確保する。

 家庭内にいる猫が事故として病院に来るケースは多々ありますが、最も多いのが誤食です。何かを食べて、胃や腸につまってしまったり、体内に吸収されて中毒を起こすこともあります。そのほかには、コードを齧っての感電、浴槽で溺れる、キッチンでの火傷、ドア開閉時に挟まる、吹き抜けの二階から落下、カーテンに爪が引っかかって出血、クローゼットに閉じ込めなどなど…つまりは可能性は沢山あります。初めて家族になった猫が、どんな習性、クセ、好みがあるかは、譲渡の前に良くお伝えしますし、アドバイスもいたしますが、環境が変わったり成長とともに、習性も変わる事があります。そのため、安全なケージの中でしばらく生活してもらい、徐々に部屋に出してあげて、様子をみましょう。

 

 その際、防げる事故は防ぎたいですから、脱走防止はもちろん、コードにはカバーをする、食べてはいけないものは片付ける、落とすと割れるものは置かないなど徹底しましょう。「ケージにいつまでも入れていては、危険なものも慣れない」と思われるかもしれませんが、まずは安全確保です。お子さんに危ないことをあえて経験させて学習させる人はいないと思います。猫も小さい子も同じです。小さい子、で関連しますが、どんなに大人が気をつけていても、ご家族、例えば小さなお子さんや高齢者の方などは食事を落とす事も多いです(私も落としますが)。そういった予期せぬ事を防ぐ上でも人の食事中にケージに猫を入れるのも良いです。
 だんだん環境に慣れてきて部屋にフリーになる時間が増えても、例えばアイロンをかける、干した布団をベランダから取り込む、業者さんが室内の工事をするなどのときには、猫にケージに入っていてもらうととても便利です。そのため、飼い始めてからしばらくして慣れてきても、お留守番のときや予期せぬシーンのためにケージは常に設置しておく事をおすすめします。

 

ケージに慣れておくと良い事

  そもそも当院の保護猫はケージでの生活に慣れているのですが、譲渡後はおうちでゆっくり、フリーの状態も増えると思います。それでも、ケージを使っていただく習慣を付けておくと良いのは、

  • 病院での入院やペットホテルで預けられたとき
  • 災害時で避難してケージ生活になったとき
  • 引っ越したとき
  • 多頭飼育しているなかで病気で、ご飯やトイレを管理したいとき

 

などです。要はケージに慣れていないとただでさえ知らない環境なうえに、ケージがストレスになる、ということです。災害などは近年他人事では全くなく、現実的な理由になると思います。また、なにかいたずらをしたときにお仕置きのためにケージに入れる、という使い方をすると、ケージに嫌なイメージがつき「閉じ込められた」と猫もケージを嫌いになってしまうので、普段から扉が開いた状態でケージの中でフードを与えるなど、良いイメージをつけてあげましょう。

 

どんなケージが良いか

 

 どのようなケージが良いかは、その猫の運動量や年齢で様々に変わります。幼猫や高齢猫は段にのぼる事ができないため一段のものや、スロープつきが良いかもしれません。若い猫の場合は二段から三段のステップつきのものがよいでしょう。猫は水平の運動より垂直の運動が必要な動物です。原則としてトイレと食事の容器、ベッドは離すことが必要です。若い猫は運動量も多く、トイレ砂や水の器をひっくり返す事もあります。

 

レイアウトとしては

 

1段目:トイレ、つめとぎ

2段目:安定した器、もしくはケージに固定した器(水と食事のふたつ)

3段目:ベッドやハンモック

 

が理想と言えます。使い勝手はケージの広さや高さにもよりますので譲渡時にご相談ください。

 

ケージの材質については

  ケージにはスチール製、プラスチック製、木製などがあります。お値段は、書いた順番で高くなる傾向にありますが、縦横、高さなどサイズでも変わります。衛生面で言えば木製は糞尿などがしみ込みやすく、スチールやプラスチック製の方が掃除や消毒がしやすいでしょう。インテリアで言えば、木製のほうがおしゃれで重厚な作りのものが多いです。また扉をいたずらして開けてしまう子もいるのでしっかりロックが出来るもの、ガチャンと大きな音がでないものが良いです。

  サイズについてはもし兄弟で譲渡された場合は大きめ三段が良いと思いますし、その動物、ご自宅の間取りによって変わると思います。これはトライアル前にご相談できるとよいでしょう。

 以上が当院からのケージをご用意いただくことの理由、ご説明となります。この内容は当院院長の少ない動物の飼育、譲渡経験からというものでもなく、臨床獣医師としての家庭内事故の治療経験や、これまで保護して大切に育てた子が、里親先で事故に遭わないようにというボランティアの先人達(大げさですが)の経験や知恵の結果でもあります。新しい家族を持つ、すなわちひとつの命を預かるという意識と覚悟のうえで、お守りとしてケージをご用意いただけたらと思います。

2020年3月 竹井

 

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