猫の後ろ足の断脚

 やむを得ず「体の一部を切除する」、ということは病気の治療として行われることはしばしばあります。例えば避妊去勢手術のために精巣や子宮卵巣を摘出する(これは繁殖制限、病気の予防目的ですが)、歯周病でグラグラした歯を抜く、などです。今回お伝えするのは飼い主さんが精神的にかなり抵抗を感じやすい、「断脚」についてです。猫ちゃんを足を切断、いわゆる断脚をしなければならない原因は、多い順に以下になります。

  1. 重度の外傷(交通事故・落下などによる粉砕骨折、軟部組織壊死)

  2. 末梢神経の重度損傷(まひ)(上腕神経叢損傷など、深部痛覚の消失が続くケース)

  3. 重度の感染症(壊死性筋膜炎、難治性骨髄炎、壊死を伴う咬傷など)

  4. 悪性腫瘍(骨腫瘍・軟部組織肉腫などで広範囲切除が必要な場合)

  5. 血流障害による壊死(絞扼、凍傷、塞栓による末端壊死)

  6. 先天性奇形や慢性的な自壊・痛み(生活の質が保てないケース)

飼い犬に比べ外に出ることが多い猫は、交通事故、猫同士の喧嘩など外傷・感染があり、かつ発見治療が遅くなることもあり、やむを得ず患部を切断することが多いです。また悪性腫瘍での断脚も犬ほど多くはありませんが、あります。(→症例報告はこちら)

今回は6番目の、先天的な奇形と思われる症例です。いわゆる保護猫は、若いうちから足が途中から欠損している子がいます。もともと奇形だったのか、子猫のうちに足を食べられた、怪我して取れてしまったとか、原因はさまざま推測されます。その欠損した場所によってはその足をついて、先端から出血してしまうこともしばしばあります。

さて、症例の猫ちゃんはベンガル猫、未避妊雌、2歳。ブリーダーからの保護猫です。もともと右後ろ足が膝の下から欠損しており、活発な行動性から足先をついてしまい、先端が出血し赤くなることもあるそうでした。

右後ろ足の膝から下がない

足先は毛は生えておらず皮が剥け赤くなっている

譲渡されてすぐ来院されましたが、保護シェルターからは「包帯を巻いて」と説明されたそうです。活発なベンガルちゃんを毎日包帯交換するのはとても大変です。しかし足先はおすわりの状態でも床にぴとっと着くと痛いのかすぐに足をあげる、を繰り返し、太ももは常にプルプル震えとても敏感になっているようでした。今後の生活の質の向上を考慮し、床についても問題ないようにさらに足を短く切断することを提案しました。それがいわゆる断脚です。断脚はその原因によっても切断する部位が変わってきますが、後ろ足では主に2パターンです。1つめは、股関節から足を丸ごと外す股関節離断術です。これは病変が大腿部にある場合などにも用いられ、後ろ足の断脚で最もよく行われる術式です。2つめは、大腿骨(太もも)骨幹部離断術です。これは主に膝から下に病変がある時に行いますが、足を長く残しすぎると足をついてしまうことがあります。今回は活発な猫ちゃんのためにも股関節から後ろ足を外す1つめの術式としました。

1は股関節から断脚、2は大腿骨骨幹部から断脚のライン

術前のレントゲン写真を下に示します。骨の断端がやや鋭利なのと、付着する組織が薄く、床についたりぶつけるとすぐ下に固い骨がある状態です。これは出血もしやすいし痛みも強いでしょう。下手すると外傷から骨への感染の可能性もあります。

断脚は全身麻酔下で行いますが、同時に避妊手術も行うこととしました。お腹を開ける避妊手術を行ったのち、足を消毒して手術にとりかかります。

まずはバリカンで毛をかり仰向けで避妊手術から。

右後ろ足をバリカンで毛をかり準備をします。断端が以前より悪化していました。

筋肉の断端や股関節部を包める様に皮膚を余らせる様に切開。

太い動脈や神経を丁寧に剥離、結紮しながら行います。

筋肉を切断し、指差しているところが大腿骨の骨頭部分です。

足を離した後。

縫合して終了です。絆創膏の貼った部分は避妊手術の箇所です。

術後は圧迫包帯を数日巻きます。

包帯で圧迫するため3日ほど入院しましたが、若いのもあり元気食欲共に旺盛でした。10日ほどで抜糸しました。

腫れも感染もなく問題なく皮膚はくっついている。

一ヶ月後に再診にいらっしゃいましたが、問題なく元気に飛び回っているそうです。このように、一見可哀想に見えるかもしれませんが、断脚はわんちゃん猫ちゃんを痛みから解放する手立てとなり得ます。毎日出血したり包帯を交換したりに比べれば、良い選択肢といえるでしょう。ぜひご相談ください。

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