猫の便秘、巨大結腸症
日頃診療していると猫ちゃんは犬に比べ、便秘が問題となりやすいと感じます。近年は猫ちゃんも室内飼育が普及・長寿化し、さらに問題が浮き彫りになったとも考えられます。時として命に関わる問題にまで発展する、猫ちゃんの便秘について今回はお話しします。
実は人間も運動不足・ストレス・肥満・高齢化により便秘が問題となっています。人間のガイドラインでは便秘とは「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。ですから、毎日出ていたとしても「小さくてコロコロ、固く量が少ない、力んでいる」などがあれば便秘にあてはまります。猫ちゃんの飼い主さんからお話を聞くと、こういった排便の仕方の子が少なくありません。ただ毎日出てはいるため、飼い主さんも便秘とは思っていないことが多いのです。
「ではなぜ、便秘は放置してはいけないのでしょうか?」
消化管の働きは小腸で栄養を吸収し、大腸で水分を吸収、残りかすを便として排泄します。便が大腸に貯留すると、悪玉菌が繁殖し、硫化水素、メルカプタン、アンモニアなどの毒素を発生します。通常これらは便とともに排泄されますが、便秘ですと水分と共に大腸から吸収され体内に巡ってしまうのです。これらにより元気食欲低下など、体調が悪化します。よくヒトで「便秘だと口臭・体臭がきつくなる」といいますが、これはこの硫化水素などが血中から肺や汗腺に巡り、呼吸や汗で排泄されるためです。
長時間滞留した便は水分がより吸収され硬くなり、より排泄しにくくなるという悪循環になります。便が大量に貯留して大腸が拡張してしまうと、大腸の平滑筋や神経に異常を起こし、最終的には収縮できなくなるという不可逆的な変化を起こしてしまいます。そのため、放置せず早めに便秘を改善する必要があるのです。
便秘の症状
- 何度もトイレで気張るけど便が出ない
- トイレで大声でなく
- お腹を痛がる(仰向けにならない、触ると嫌がる)
- 嘔吐・食欲不振
- 元気消失
- 体重減少
- おしりが便で汚れている
- 便が硬い、コロコロで小さい
- 下痢
便秘の原因
器質性
腸そのもの、もしくは腹腔内に炎症・腫瘍などがあり、異常をきたし通過障害となる(例:リンパ腫、 腺癌など)
機能性
代謝性;肥満、脱水、低カリウム血症、腎臓病など
神経性;脊髄疾患、変形(マンクス)、自律神経障害、特発性
行動学的問題
汚れたトイレ、環境の変化、運動不足など
上記のように便秘の原因は多岐に渡ります。高齢になればなるほど原因がひとつではなく合併していることがありますので、便秘と言えど検査項目も増えます。例えば血液検査で腎臓肝臓、脱水の程度など代謝性疾患について調べますし、レントゲン検査や超音波エコー検査にて骨格、関節の評価、内臓の評価をします。またとても大切なことですがご自宅の環境などを飼い主さんにお聞きします。
巨大結腸症について
猫に特徴的な便秘の症候群に「巨大結腸症(megacolon)」があります。定義としては「持続的、不可逆的な結腸(大腸)の拡張と運動低下を特徴とする状態」とされています。巨大結腸症は慢性化した便秘の最終形態とも言えますが、原因が特定できない特発性巨大結腸症と、骨盤狭窄などの原因が別にある二次性巨大結腸症にわかれます。全体の62%は特発性と言われ、中年齢のオス猫に多いです。腸の平滑筋が神経伝達物質に反応できず機能不全に陥っている状態と言われています。
一般的な便秘の身体検査としては以下があります。
環境についての問診
トイレ、多頭飼育、ストレス、環境の変化などなかったか
身体検査
視診、腹部触診、神経学的検査、痛みの有無、直腸検査
血液検査
脱水、腎臓病など代謝性の問題や慢性疾患の有無の確認
レントゲン検査
骨盤狭窄、脊椎や関節疾患の有無、腹腔内の異常(腫瘤など)、便秘の程度の確認
超音波検査
腹腔内の異常、腸管の異常の確認
このなかで、レントゲン検査で結腸の直径が第5腰椎の椎体長の1.48倍を持続的に超える場合、巨大結腸症が疑われます。(正常が>1.28倍、便秘は1.28倍-1.48倍)
治療について
便秘、巨大結腸症の治療は原因によって様々ですが、もはや便が出ずイキって吐いてしまう、ぐったりしているなどの時は緊急で処置が必要です。また目安として、成猫で5日間、子猫で3日間、便がスムーズに排泄できていない場合は受診しましょう。
急性期治療
浣腸、および用手摘便があります。浣腸では温めた温水、生理食塩水やそれらにグリセリンを混和したものなどを肛門からカテーテルで注入します。腹部をマッサージしておいてしばらくすると自然に浣腸液とともに排便することを期待します。浣腸しても排便が難しい場合、カテーテルすら入らない硬い便の場合は浣腸剤を注入、もみながら獣医師が指を肛門に入れて便を砕きながらかきだします。この処置は猫に対するストレスが強いため、体調にもよりますが鎮静をかけて行うことがほとんどです。いずれの処置も脱水した状態で行うことは禁忌であり、必ず点滴などを行います。
長期治療
急性期を脱した後は、便秘の原因となる状態の改善と並行しつつ、便を柔らかくすること、消化管の動きを良くすることを目的とした治療を行います。
緩下剤
①膨張性、②潤滑性、③浸透圧性の3種類があります。
①膨張性緩下剤
便の容積を増すことで腸管蠕動を亢進させる働きがあります。オオバコ由来のサイリウムが代表的なもので、サイリウム単体をフードに混ぜるほか、サイリウム含有の療法食もあります。ロイヤルカナンの消化器サポート可溶性繊維、ヒルズの腸内バイオームなどが代表的なものになります。
②潤滑性緩下剤
便の表面に膜を作り滑りやすくします。流動パラフィンや白色ワセリンがあります。軽度の便秘であればミネラルオイルが主成分のラキサトーンも有効かもしれません。
③浸透圧性緩下剤
便中に水分を引き込み、便を柔らかくします。ラクツロースシロップが従来使用されてきましたが、近年はマクロゴール4000(商品名モビコール)が嗜好性がよく使用されています。
消化管運動改善薬
便秘に対して腸の蠕動運動を改善する目的でモサプリド(商品名プロナミド)を利用することがあります。安全性が高く、便秘治療薬としては第一選択となります。
外科治療
再発を繰り返し、なんども浣腸摘便が必要な場合や、骨盤狭窄などの物理的閉塞が原因の場合は外科対応を検討します。
①骨盤拡張術
交通事故や先天性など骨盤に狭窄があり排便困難になった場合には、骨盤を拡張する手術があります。
②結腸亜全摘/回盲結腸接合部を含めた結腸全摘出術
弛緩してしまった結腸を切除します。合併症として下痢、排便痛、縫合部離開による腹膜炎があります。近年では治療薬の発達や以下の結腸切開により緩和することも多く、まれな術式となっています。術後は軟便化することがあります。
③結腸切開術
結腸切開術では、全身麻酔下で結腸を切開し、糞便を摘出します。その後縫合します。合併症としては腹腔内が便で汚染される危険があることと、縫合部の離開、腹膜炎です。退院後はモビコールなどで便秘の再発予防を行います。重度の肥満で便が十分に摘出できない場合などはこの術式でいったん固まった便を摘出し、便秘治療を行うと比較的良好です。
飼い主さんへのアドバイス
便秘は早期に治療を行えばコントロール可能であることが多いですが、上記のように大掛かりな手術にまで発展することもあります。また高齢猫は脱水や関節痛、筋力低下で便秘がちですが、排便困難による食欲不振が慢性腎臓病などの持病を悪化させ、寿命を短くする可能性があります。便が出ていてもコロコロな場合は早めに病院に相談しましょう。
自宅でまずできる便秘予防としては、トイレを猫の体長の1.5倍の大きさにする、またぎやすいものにする、砂を変えるなどの排便の快適さを追求しましょう。多頭飼育の場合はトイレの個数は「頭数プラス1」です。2頭飼育していれば3個必要です。また水分摂取量を増やしましょう。お水をいろんな器に入れる、食器と水の容器は離して置く、ウエットフードを増やす。などです。最近はオオバコ(サイリウム)含有のウエットフードや水分補給目的のものをありますので、探してみてください。水分補給は便秘予防の他にも腎臓保護にもつながりますのでとても大事です。なにかあればポラン動物病院にご相談ください。