犬の前歯がグラグラ。これって歯周病ですか?

前歯(切歯)がぐらつくと「歯周病かな?」と思われがちですが、実際にはそれ以外の要因も多く関係しています。原因によって治療法は異なり、単に歯石を取るだけでは改善しない場合もあります。ときとしてまだ若い年齢、2,3歳からたくさん切歯が抜けてしまうこともあり、飼い主さんはショックを受けることもしばしばです。ぜひ、このページを読んだあとには、おうちの子の歯をみてみましょう。

健康な上顎切歯と歯肉


主な原因

  • 歯周病(プラークや歯石による炎症)
     歯を支える歯肉や骨が細菌によって破壊され、支えが弱くなります。
     → 治療:スケーリングやルートプレーニング、歯みがきなどのプラークコントロール。

  • 重度の歯周炎で歯肉と歯槽骨が喪失し、歯根が露出、ぐらぐらしている。

  • 同様に重度歯周炎。歯石で固まっているが、治療で歯石を除去したら同時に歯が抜けてしまうレベル。

     

  • 咬み合わせの問題(外傷性咬合)
     下の犬歯が上の切歯を押したり、切歯に力が集中することで骨が吸収します。
     → 治療:咬合調整、犬歯の尖端を樹脂で被覆、矯正的修正など。

  • 下顎が前に出ており、上顎の切歯が下顎の切歯の内側に接触している。

  • 叢生といわれ、ガタガタな歯並びにより歯垢がたまりやすい。歯磨きもしづらい。

     

  • 歯の位置異常・歯列の狭さ
     小型犬では歯と歯が密集しており、汚れが溜まりやすく清掃が難しいため、
     切歯から歯周炎が進行しやすくなります。
     → 治療:清掃・抜歯による隙間改善、定期的なプロフェッショナルケア。

  • 基本的に歯周病。小型犬は顎が小さく歯間がせまいため容易に歯周病が進行してしまう。

     

  • 唇や被毛による慢性的な刺激
     長毛が常に前歯や歯肉に触れることで、炎症や歯肉退縮を起こすことがあります。
     → 治療:トリミング調整、刺激部の保護、局所の消炎処置。

  • アレルギーがあり、毛を常にガジガジかんでいる子。毛が歯間にはさまる

     

  • 全身的な影響(ホルモン・免疫の異常)
     糖尿病や甲状腺機能低下、免疫疾患などが歯周組織の治癒を遅らせます。
     → 治療:内科的管理と歯科治療を並行して行います。

  • 外傷や咀嚼癖による負担
     硬いおもちゃやボール遊びなどで前歯に強い力が加わると、
     歯根膜や骨が損傷し、動揺を引き起こすことがあります。
     → 治療:噛み癖の修正、硬いものの使用を控える。

  • 硬いおもちゃを噛んで、切歯が平になっている


治療の考え方

  • 歯の動揺の原因を特定し、「炎症性」なのか「力学的」なのかを見極めることが重要です。

  • 歯石除去はスタート地点に過ぎず
     原因に応じて咬合調整や環境改善を組み合わせてはじめて再発を防げます。

  • 特に切歯のぐらつきは、咬合と局所形態の問題が隠れていることが多いため、
     歯周治療と合わせた「総合的な口腔評価」が必要です。

  • 下に、かみ合わせが原因で歯肉が炎症を起こしている咬合性外傷の治療例をお示しします。
  • 下顎犬歯が上顎の切歯に接触し突き上げているため、赤みが強くなっている

    全身麻酔下で歯科レントゲン撮影、歯石除去を行い、接触している切歯を抜歯、骨を一部削り犬歯があたりずらくし歯肉を縫合。

    一週間後の様子。接触しなくなっている。

    例えばこの症例を、歯石除去のみ行っていいると、結局原因が解決しておらず切歯はいずれにしろ動揺し歯を失います。それまでの間、ずっと接触による不快感があるでしょう。今回のようなケースはそれ以外に接触する下顎の犬歯の先端を削る(歯冠短縮)という選択肢もあります。ご家族と相談し、その子その子にあった治療を選択します。

  • このように歯が一本ぐらぐらするにしても様々な原因があります。気になる点があればぜひポラン動物病院に受診ください。
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