犬の不正咬合、犬歯生活歯髄切断とその後
生後10ヶ月のスピッツのわんちゃん、去勢の相談で来院されました。そこで下顎の犬歯が内側に向いて、上顎の切歯(前歯)に当たっていることがわかりました。(歯の先端のエナメル質が欠けておりエナメル質形成不全という疾患も伴っておりますが、今回はご説明は省略します)
ちなみに、正常な歯並びですと下の写真のようになります。下顎の犬歯が上の外側に出ているのがわかります。
今回のスピッツちゃんは噛み合わせが悪く、「不正咬合」と呼ばれるものです。乳歯も生え変わっており、生後10ヶ月ですと歯の移動も困難です。チェーンなどの矯正器具を使った方法もありますが長期間に及ぶため、飼い主さんと相談し犬歯の先端をカットして当たらなくする「生活歯髄切断法」という治療を選択しました。この処置を去勢手術と同時に行うこととしました。
生活歯髄切断法とは、歯の神経の治療の一種となります。ヒトですと、虫歯除去して歯の神経が出てしまっている時によく用いられます。今回は犬歯を上顎に当たらないようにカットするのですが、そうすると歯の神経が露出してしまいます。これは神経が感染を起こしますし、痛みを生じます。そのため露出した歯髄を一部除去したのち止血、消毒をしてMTAセメントや水酸化カルシウムなどの薬を詰め、コンポジットレジンで硬めます。
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正常な歯の構造
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生活歯髄切断法を行なった歯
というわけでスピッツちゃんは全身麻酔にて去勢手術を終えたあと、犬歯をカットしました。
歯髄からの出血を止めます。
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ペーパーポイントにて止血
水酸化カルシウム、グラスアイオノマー、コンポジットレジンで修復して終了です。
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光重合で固める。
2年後、噛み合わせ、歯の神経に問題がないか、全身麻酔下にてレントゲンでの検査を行いました。
外観。コンポジットレジンがかけることなく、問題なさそうです。
歯科レントゲン写真での術前、術後2年での経過です。
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右下顎犬歯
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2年経過
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同様に左下顎犬歯術前
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2年経過後
左右での比較です。
歯の神経はレントゲンで黒く写ります。成長とともに歯の神経は細くなりますが、神経が死んでしまったりトラブルがあると、成長が止まり歯の神経は黒く太いままになります。今回は2年の経て、左右対称に神経が細くなり、歯の根っこの問題もありませんでしたので、経過良好といえます。歯の神経の処置がある歯科治療は、問題が生じたかどうかは歯科レントゲンで評価します。今回の子は2年空いてしまいましたが、本来は半年後、1年後、2年ごと経過を追います。ポラン動物病院では歯の噛み合わせの問題、歯の神経の治療を行っております。ご相談くださいね。