歯ぐきが腫れている?・猫の歯槽骨炎の治療・歯周外科治療
※個々の症例に対し、お電話のみでのご相談はお受けしておりません。一度診察にいらしてください。
歯周病とは、歯垢のなかの細菌が歯周ポケットの内側で感染、炎症を起こし、最終的に支えている骨(歯槽骨)が溶けて歯が抜けてしまう病気です。猫ちゃんはその過程で独特の経過を辿ることがあり、その一つが上顎犬歯(きば)の周囲の骨が腫れる歯槽骨炎、犬歯の挺出(ていしゅつ)です。実はこれは、猫ちゃんの歯のトラブルで最も「グラグラして自然に抜けるのを待ちましょう」と獣医さんに言われがち(と、当院にセカンドオピニオンで来院される方が多い)な病気です。
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伸びた歯が唇にささったり、噛み合わせが変わり口が完全にとじなくなる
上顎犬歯の周囲がまあるく腫れる症状は、海外だとBuccal Bone Expantion (頬側骨の拡大)BBEと呼ばれます。
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右上顎犬歯部の歯肉がはれている
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右上顎犬歯の歯肉部の腫れと犬歯の挺出
レントゲンで確認すると、下の図のように歯の周囲の骨が広がって(拡大)見えます。
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白矢印部分が歯槽骨の拡大
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下顎左犬歯の挺出
重要なのは、歯肉が腫れているのではなく、骨自体が拡大し腫れて見えるということです。また、猫ちゃん特有の症状として、歯周病になった歯がどんどん外に押し出される挺出という状態があります。いっけん歯が伸びているように見えますが、実は外に外にと、歯が押し出されているのです。進行すると、歯は支えがなくなり抜けてしまいます。
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黒矢印が右犬歯と比較し左犬歯が押し出されている部分。白矢印は歯槽骨の拡大部分
この状態は進行してしまってから来院されるケースが多く、ほとんどが抜歯が対象となることが多いです。しかし最近は初期で条件さえあえば拡大した部分の骨を削り綺麗に整え、治療するという方法もあります。
今回、腫れた部分を整え治療した猫ちゃんがおりますのでご紹介いたします。7歳の猫ちゃん。動物ドックを受けていただき、上顎左犬歯の歯肉が腫れていることをご説明し、歯科治療を行うことになりました。
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動物ドック時の左上顎犬歯部歯肉の腫れ
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比較的正常な右上顎犬歯(別日)
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左上顎犬歯部の拡大した写真。まあるく腫れている。
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歯科処置当日の上顎左犬歯部
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黄色矢印部分が拡大した歯槽骨
全身麻酔下にてまずレントゲンを撮影すると、左上顎犬歯に比べ、右上顎犬歯は、周囲の歯槽骨と呼ばれる顎の骨と、歯の間に隙間ができて広がっておりました。しかし犬歯の挺出はほとんどなく、吸収病巣と呼ばれる歯が溶けてしまう病気もありませんでした。プローブという探子で歯周ポケットを測定すると4mmという深いポケットはありましたがグラグラと動揺することはありませんでした。
そこで、一般的な歯周病治療である歯石除去などを行なったのち、歯肉を切開しました。
中にはブヨブヨになった歯周組織が残っており、それらを丁寧に除去し、骨も拡大した部分を切除、平坦になるように丁寧に削りました。もちろん歯に付着した歯肉縁下歯石も除去し、洗浄した後歯肉をもとの位置に戻し縫合しました。
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縫合した直後
1週間後には腫れはもちろん歯肉の赤みも減り、本人も特に変わりなく食事もとれていたようでした。歯肉は少し下がり、犬歯の歯根はやや露出していましたが、挺出は認められませんでした。その後は残念ながら違う病気での治療が優先となってしまいデンタルケアができなかったため、1ヶ月後の検診では歯垢が付着していたものの、縫合した部分など問題ないようでした。
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約1週間後。歯肉の赤みが減少
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1週間後正面
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1ヶ月後。プラークの付着と歯肉の赤みが再発。
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1ヶ月後正面。
この病気は歯周ポケットだけでなく歯槽骨を削らなければ進行し、いずれは抜歯もしくは自然に歯が脱落してしまうため、積極的な歯周外科治療が必要です。歯肉を切開したり歯槽骨を削るのは飼い主さんにとってはかなり抵抗があるかもしれません。しかし「抜歯」以外の選択肢として効果的と感じました。歯の挺出がない、もしくは軽度で動揺がない、吸収病巣など別の歯の病気がないという条件が合致していれば、もし歯肉が盛り上がっていても、このような治療法をご提案できます。ご相談ください。